医薬品の特許②
特許権と、その特許権が対応する具体的な製品との関連性を特定することは一般的には難解な作業ですが、医薬品は例外的に特許と製品の関連付けが行いやすい分野といえます。
本レポートでは、2023年の国内医療用医薬品市場で1315億円(低分子医薬品の中で1位)を売上げたリクシアナ(一般名:エドキサバントシル酸塩水和物)を例に、製品と特許との関連性を分析してみます。
目次 1.リクシアナ(エドキサバントシル酸塩水和物)について 2.リクシアナ関連有効特許の調査 2-1.基本情報 2-2.J-PlatPatを用いた有効特許の検索 2-3.リクシアナ関連特許(日本) 3.さいごに |
1.リクシアナ(エドキサバントシル酸塩水和物)について
リクシアナは第一三共株式会社が製造販売を行っている低分子の経口抗凝固剤です。
血液凝固カスケードにおける活性化血液凝固第X因子(FXa)を阻害することにより、血栓形成抑制作用を発現して血栓症の予防や治療効果を発揮します。ワルファリンの持つ欠点を克服し、安全性が高く使いやすい薬剤として医療現場で使用されています。
フィルムコーティング錠(リクシアナ錠15mg、リクシアナ錠30mg、リクシアナ錠60mg)に加え、服薬アドヒアランスを向上させた口腔内崩壊錠(リクシアナOD錠15mg、リクシアナOD錠30mg、リクシアナOD錠60mg)の製剤があります。
2.リクシアナ関連有効特許の調査
2-1.基本情報
・特許権者:第一三共株式会社(識別番号307010166)
・エドキサバンの化学名:N1-(5-クロロピリジン-2-イル)-N2-((1S,2R,4S)-4-[(ジメチルアミノ)カルボニル]-2-{[(5-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチアゾロ[5,4-c]ピリジン-2-イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド
・CAS登録番号:912273-65-5
・医薬用途の特許分類:A61P7/02(血液または細胞外液の疾患の治療薬/・抗トロンビン剤;抗凝血剤;血小板凝集阻害剤)
2-2.J-PlatPatを用いた有効特許の検索
工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供するJ-PlatPatは2023年からリーガルステータス機能を提供しています。なお、リーガルステータスとは、特許出願や特許権の法的状態を示すもので、現在「審査請求前」「審査中」「査定不服」「特許 有効」「意義・無効」「(出願の)却下・拒絶」「特許 消滅」のどの段階にあるかを知ることができます。「拒絶理由通知」「刊行物提出」などといったイベント発生も表示されます。リーガルステータス更新は休日を除き毎日行われます。
J-PlatPatによる特許文献検索とリーガスステータス機能を利用して、第一三共が保有するリクシアナ関連の有効特許を調査しました。
【調査方法】
J-PlatPat「特許・実用新案検索」の「論理式入力」画面から行います。
文献種別は「国内文献」のみにチェックを入れます。検索オプションとして、登録案件検索の「登録日ありで絞り込む」をチェックし、ステータス検索の「出願・権利存続中案件で絞り込む」をチェックし、ステージ検索「特許 有効」をプルダウンから選択します。
以下の検索論理式を入力しました。
(第一三共株式会社+307010166)/AP*[{クロロピリジ,テトラヒドロチアゾ,シクロヘキ},99n/TX+エドキサバン/TX+A61P7/02]
ヒット件数は38件でした。(2024年6月時点)
38文献それぞれについて、特許請求の範囲、明細書の記載内容等を確認したところ、リクシアナ関連の有効特許と推定されるものが22件見つかりました。
2-3.リクシアナ関連特許(日本)
リクシアナ関連特許と推測される有効特許権22件を特定し、内容に基づき分類しました。
(注意:本レポート向けの簡易的調査のため、本表で全てが網羅されているかどうか保証するものではありません。)
第一三共のリクシアナ関連有効特許(2024年6月)
特許番号 | 発明の名称 | 内容 |
---|---|---|
特許4128138 | ジアミン誘導体 | 物質特許 |
特許4109288 | ジアミン誘導体 | |
特許5692873 | ジアミン誘導体の結晶およびその製造方法 | |
特許4463875 | 医薬組成物 | 製剤、 製剤の製造方法 |
特許5390014 | 抗凝固剤の溶出改善方法 | |
特許5749247 | 経口用徐放性固形製剤 | |
特許5870023 | 経口用徐放性固形製剤 | |
特許6061438 | ジアミン誘導体含有医薬組成物 | |
特許7096164 | ジアミン誘導体を含む口腔内崩壊錠 | |
特許7359764 | ジアミン誘導体を含む顆粒剤 | |
特許4564792 | 血栓・塞栓の治療剤 | 組合せ医薬 |
特許5557410 | 経口投与による血栓・塞栓の予防治療剤 | |
特許5305421 | ジアミン誘導体の製造方法 | 製造方法 |
特許4510088 | 光学活性なジアミン誘導体およびその製造方法 | 中間体化合物、 中間体化合物の製造方法 |
特許5113210 | 光学活性なジアミン誘導体およびその製造方法 | |
特許5369138 | チアゾール誘導体の製造法 | |
特許5652879 | 光学活性なジアミン誘導体の製造方法 | |
特許5666424 | ジアミン誘導体の製造方法 | |
特許5683273 | 光学活性カルボン酸の製造方法 | |
特許5769714 | ニトロキシドラジカル化合物を反応触媒とする新規ザンドマイヤー様反応成績体の製造法 | |
特許5780657 | 光学活性ジアミン誘導体の塩の製造方法 | |
特許5801011 | 光学活性ジアミン誘導体の製造方法 |
物質特許、製剤特許、組み合わせ医薬、製造方法と幅広い内容の特許権が存在することがわかります。
医薬品業界では一般的に、先発医薬品の物質特許の特許権が満了すると、それに対するジェネリック医薬品の参入が可能となります。しかし、先発医薬品の物質特許の出願より後に出願が行われた先発医薬品の製剤特許、製造方法のなどの特許権は物質特許の特許権満了後も有効に存在し続けますので、ジェネリック医薬品メーカーは、先発医薬品のこれら関連特許権に抵触しないようなスペースを狙ってジェネリック医薬品の開発を進める必要性に迫られることになります。
3.さいごに
AIRIは、特許庁登録調査機関として特許審査における先行技術調査を特許庁から受託している企業の一つで、年間2万件を超える先行技術調査を行っています。
医薬品関連の技術分野では年間数百件ほどの先行技術調査を実施しており、法定研修に合格した調査員が常に最新の発明トレンドや特許審査に接し続けています。
特許文献調査だけでなく、学術文献の調査、化学構造検索、遺伝子・蛋白質の配列検索の能力も有し、調査結果に基づいた特許性の判断や、海外特許庁での審査経緯の分析も得意としています。
各種特許調査、特許に関するご相談はお気軽にAIRIにお問い合わせください。
次回のレポートでは、ジェネリックメーカーによるエドキサバン関連の特許出願を分析します。
執筆者プロフィール
村井 孝弘
執行役員 社長室経営企画グループリーダー
1975年大阪府生まれ。
大手製薬メーカーを経て、2015年AIRIに入社。化学応用、医薬、医療機器など幅広い分野の特許調査や知財コンサルティングに従事。現在は社長室で経営施策の企画・遂行を担当。
1997年 京都大学農学部卒、1999年 同修士卒。2008年 農学博士(論博)取得後、~2010年米国留学。
趣味は水泳と野球観戦。
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