画像形成装置における省エネ技術とその特許②
1.はじめに
近年の地球温暖化による全世界的な異常気象の発生やエネルギー価格の高騰は、世界が直面する非常に大きな課題となっており、あらゆる産業分野において省エネ技術の開発が急務となっています。 前レポートでは、プリンタやデジタル複合機等の画像形成装置において省エネ化に大きな貢献を果たした定着技術の特許出願推移についてご紹介しましたが、本レポートでは実用化された代表的な省エネ定着技術の特許についてご紹介します。
2.従来の定着技術とその課題
代表的な省エネ定着技術をご紹介する前に、まず従来の定着装置について【図1】を用いて説明します。定着装置は円筒状芯金12の内部に熱源としてのヒーターランプを備え、その外周面に耐熱性離型層13を形成した定着ローラとこの定着ローラ14に対して圧接して配置される加圧ローラ17とで構成されます。加圧ローラは円筒状芯金15の外周面に耐熱弾性体層16が形成されたものであり、定着ローラと加圧ローラの間(定着ニップ)に未定着トナー像の形成されたシート(記録紙)を挿通させて定着を行います。
このような構成の従来の定着装置では、定着ローラや加圧ローラの熱容量が大きく且つ定着ローラの内部からヒーターランプを用いて間接的に加熱します。そのため、加熱ロールの表面温度を室温から所定の設定温度まで上昇させるのに1~10分もの長いウォームアップ時間を必要とし、待機中も予熱する必要があることから、省エネ化を実現する上ではこれらに必要な電力の削減が最重要課題となっていました。
【図1】従来の定着装置(特開平11-038811号公報)
3.代表的な省エネ定着技術の特許の紹介
<表1>は代表的な省エネ定着技術の特許公開番号と、各定着技術に用いられている要素技術について整理したものです。今回取り上げた各省エネ定着技術について、公開特許公報中の【図2】~【図8】を用いてその技術内容について簡単にご紹介します。
<表1>代表的な省エネ定着技術特許とその要素技術
特開平05-011648号公報の定着装置は、【図2】に示すように、定着ローラをベルト(定着フィルム)に変更することで定着部材の低熱容量化を図るとともに、熱源としてもヒーターランプを定着ニップ背面に配置した面状ヒーターに変更し、定着ニップを局所的に加熱することでウォームアップ時間を短縮し、待機中の予熱を必要としないオンデマンド定着を実現しているものです。
【図2】特開平05-011648号公報
特開平08-227249号公報の定着装置は、【図3】に示すように、定着ローラを薄肉小径化することで定着部材の低熱容量化を図るとともに、薄肉小径化による定着ローラの剛性の低下を補うために加圧ローラを加圧パッドに変更し、低い圧力でも十分な長さの定着ニップを確保することでウォームアップ時間を短縮するとともに待機中の予熱を必要としないオンデマンド定着を実現しているものです。
【図3】特開平08-227249号公報
【図4】に示す定着装置(特開平11-038811号公報)は、【図3】の定着装置と同様、薄肉定着ローラを用いています。そして、薄肉化により定着ローラが長手方向に撓んで長手方向中央部の定着ニップが端部に比べ狭くなることを補うために、定着装置の加圧部材として、中空の円筒体(薄肉加圧ローラ)と、薄肉加圧ローラの内部に挿通され薄肉加圧ローラを定着ロールに押圧する両端部よりも中央部の径が拡大された押圧部材(クラウンローラ)とを有するものを用いています。
【図4】特開平11-038811号公報
特開2001-092298号公報の定着装置は、【図5】に示すように、熱源をヒーターランプから励磁コイルに変更し、誘導加熱によって定着ローラを直接発熱させることでウォームアップ時間を短縮しているものです。
【図5】特開2001-092298号公報
【図6】に示す定着装置(特開2001-242732号公報)は、【図5】の定着装置と同様、熱源をヒーターランプから励磁コイルに変更するとともに、定着ローラを定着ベルトに変更し、誘導加熱によって熱容量の小さい定着ベルトを直接発熱させることでウォームアップ時間を短縮しているものです。
【図6】特開2001-242732号公報
特開2007-212896号公報の定着装置は、【図7】に示すように、定着ローラ表面に加熱用のベルトを当接させ、定着ローラを内部からではなく定着ニップに近い表面を外部から局所的に加熱することでウォームアップ時間を短縮しているものです。
【図7】特開2007-212896号公報
特開2012-103609号公報の定着装置は、【図8】に示すように、定着ベルトを用いるとともに定着ベルトの内側に加圧パッドを配置し、十分な長さの定着ニップを確保することでウォームアップ時間を短縮し、待機中の予熱を必要としないオンデマンド定着を実現しているものです。
【図8】特開2012-103609号公報
4.さいごに
AIRIは特許庁登録調査機関として、特許庁からの発注を受け、特許審査の際に必要な先行技術調査を行っている企業です。
年間20,000件超の先行技術調査を受託しており、調査対象となる出願は広範な技術分野にわたります。AIRIに所属する調査員は日々の調査業務において担当技術分野の技術トレンドに常に接しており、先行技術調査結果に基づいた特許性(新規性・進歩性)の判断や、日本特許庁以外の各国特許庁での審査経緯の分析も得意としております。
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執筆者プロフィール
香川 敏章
特許調査事業部(人間環境領域) 兼 社長室経営企画グループ
1989年3月に神戸大学工学部生産機械工学科修士課程修了後、同年4月にシャープ株式会社に入社。
プリンタ、デジタル複合機、電池等の研究開発、商品化に従事し、在職中の出願特許は280件を数える。
2017年3月にAIRIに入社し、事務機、電池、生産機械等、専門性を活かし幅広く特許調査を担当。
2023年7月より現職。香川県丸亀市出身。
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