パチンコの特許
1.はじめに
アミューズメント分野の特許は、特許分類上主にA63に分類されます。
大きく分類すると下記のようなジャンルがあります。
・パチンコ
・スロット
・電子ゲーム機
・スポーツ
・玩具、遊具
・事務用品
2.パチンコの特許
出願件数は2009年までは年間5,000件程度で推移していましたが、2010年以降から出願件数が増加し、2016年以降は年間10,000件程度で推移しています。
パチンコ、パチスロ業界は、パテントプール制度を取り入れており、団体に加入しているメーカーが保有する特許をお互いにライセンス料なしに使用できる仕組みになっています。
各メーカーは遊技機を1台販売するごとにパテントプール団体に実施料を払い、集まった実施料をパテントプール団体から特許の取得数や特許使用数といった特許にかかわる数字に基づいて各メーカーに許諾料として分配する業界運用がなされています。
そのためパチンコ、スロットメーカーは特許権を多く取得するほど多くの許諾料を得られるため、他の分野と比べて特許出願件数が多くなる傾向があります。
3.パチンコの特許の内容
パチンコ、スロットには遊技機規則といった風営法による法律が定められており、各遊技機メーカーは遊技機規則で定められた範囲内にスペックが収まるように遊技機を開発しています。
パチンコの特許出願はパチンコ店の実機に搭載されているものが出願されます。
その内容は「遊技性」、「演出系」、「構造物」、「システム系」といった4ジャンルに大別されます。
4.パチンコの特許の出願例
例1.「演出系」リーチ演出時の図柄に関する出願
特願2020-070940(出願人:株式会社サンセイアールアンドディ)
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(解説)
演出用の装飾図柄が停止表示されるまでの間で大当たり期待度に応じたリーチ演出が行われており、リーチ演出の種類に応じて装飾図柄の大きさや形状が異なっています。
請求項内の第1特別表⽰態様、第2特別表⽰態様、第3特別表⽰態様はそれぞれのリーチ演出中の装飾図柄の大きさや形状が異なっていることを限定しています。
例2.「演出系」差玉数が規定値に達すると遊技停止状態に移行することを装飾図柄で報知する演出の出願
特願2022-007525(出願人:株式会社サンセイアールアンドディ)
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(解説)
差玉数が規定値に達すると遊技不能状態に移行する(コンプリート機能)。
今回の変動で大当たりに当選すると大当たり中に差玉数が規定値を超えるかを判断し、大当たり中に規定値を超える場合は、今回の変動の大当たり図柄を通常の図柄と異なる図柄にし、大当たり後に遊技不能になることを報知しています。
請求項内の異なる図柄を停止表示は図中の「ED」図柄を限定しています。
例3.「構造物」糸状部材を使用した不正対策の出願
特願2019-132165(出願人:豊丸産業株式会社)
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(解説)
糸や線材等の糸状部材を遊技球に取り付けて遊技球を遊技領域内に発射し、遊技領域内で遊技球を取り付けた糸状部材を操ることで球詰まりを生じさせたり、始動入賞口や電チュウ等へ不正に入賞させたりといった不正行為を防止する方法として、通路内に摩擦により糸状部材を切断する手段を設けています。
請求項内の糸状部材と自身との摩擦により切断する糸切り手段が図中の糸状部材が擦れる部分を限定しています。
例4.「遊技性」大当たり後の時短300回消化中にC時短に当選すると、当選したC時短に対応する時短回数20回に残りの時短回数が書き換えられる(時短回数が減る)出願。
特願2021-064263(出願人:株式会社ニューギン)
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(解説)
残り時短回数が165回の時に図柄bに当選し、図柄bは時短回数20回が付与されるため、時短の残り回数が165回から20回に切り替わっています。
請求項内のその後に当該入賞容易状態が継続し得る図柄変動の回数が少なくなる、を限定しています。
例5.「システム系」設定変更時に前扉枠が開放中と遊技機本体枠の開放中かを判定する出願
特願2017-141845(出願人:株式会社三洋物産)
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(解説)
設定変更を行う際に設定キーをONにするが、その際に前扉枠が開放中と遊技機本体枠の開放中かを判定することで不正に設定変更が行われていないかを判断する。
請求項内の第1事象及び第2事象を含む複数の事象が発生していることに基づいてを限定している。
例6.「構造物」可動演出役物の構造する出願
特願2012-240163(出願人:株式会社ソフィア)
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(解説)
可動演出役物を待機位置から演出位置に移動させてから回転させて他の面を遊技者側に見せるように可動する。
請求項内の第1可動演出部材を前記待機領域から前記演出領域まで移動させてから前記第2可動演出部材を動作させるを限定している。
5.さいごに
AIRIは特許庁登録調査機関として、特許庁からの発注を受け、特許審査の際に必要な先行技術調査を行っている企業です。
年間20,000件超の先行技術調査を受託しており、調査対象となる出願は広範な技術分野にわたります。AIRIに所属する調査員は日々の調査業務において担当技術分野の技術トレンドに常に接しており、先行技術調査結果に基づいた特許性(新規性・進歩性)の判断や、日本特許庁以外の各国特許庁での審査経緯の分析も得意としております。
各種特許調査をはじめ、特許に関するご相談はお気軽にAIRIにお問い合わせください。
執筆者プロフィール
尾澤 育未
アミューズメント分野プロジェクトマネージャー
大学卒業後、液晶メーカーにて設計業務に携わる。その後、パチンコ、スロット好きが高じて、その知識や経験が生かせるアミューズメント分野の調査業務実施者に転身。
現在まで自ら約1,500件の特許調査を実施するとともに、検索指導者として年間約1,700件の特許調査の指導も行っている。
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