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医薬品の特許①

新薬(先発医薬品)開発には長い年月と莫大な研究開発費がかかり、その成功確率も極めて低いものですが、新薬開発に成功した企業には、開発費を補って余りある大きな利益がもたらされます。
本レポートでは、低分子医薬品の特許と、近年の医薬品モダリティの多様化について紹介します。

目次
1.先発医薬品の特許期間満了とパテントクリフ
2.独占実施権をめぐる攻防
3.医薬(医療)モダリティの多様化
4.さいごに

1.先発医薬品の特許期間満了とパテントクリフ

先発医薬品は様々な特許によって独占実施権が守られています。中でも、新規有効成分の物質特許の特許有効期間中は、開発企業がその有効成分を含む医薬品を独占的に製造販売することができます。
先発医薬品の物質特許の特許出願から20年(存続期間延長登録を合わせ最大25年)が経過すると特許期間が満了を迎え、その成分は誰もが利用可能となりますので、同じ有効成分を有するジェネリック医薬品が登場することになります。
先発医薬品がジェネリック医薬品に急速に代替され、先発医薬品の売上高が崖から落ちるように急減することは「パテントクリフ」と呼ばれます。パテントクリフは薬価が各メーカーの自由裁量となっている米国で特に顕著です。

【図1】先発医薬品”X”の米国における売上高の推移
(出典:先発医薬品”X”の開発企業の決算資料より執筆者作成)

売上高が大きい画期的な先発医薬品ほどパテントクリフが大きくなりますので先発医薬品メーカーにとってはこのパテントクリフをどう乗り越えていくかが大きな経営課題となります。

2.独占実施権をめぐる攻防

先発医薬品は、様々な特許で独占実施権が保護されます。低分子医薬品の場合、下記のような特許権が存在します。

「物の発明」の例
・化合物(新規有効物質)
・化合物の結晶形
・製剤(錠剤等)
・投与デバイス(吸入器等)
・組み合わせ医薬
・医薬キット
・有効成分は公知だが、その医薬用途が新規な医薬(ドラッグリポジショニング)

「方法(製造方法)の発明」の例
・化合物の製造方法
・化合物の結晶の製造方法
・中間体の製造方法
・製剤の製造方法

【図2】先発医薬品の独占実施権を守る特許

ジェネリック医薬品メーカーは、先発医薬品の物質特許満了のタイミングを見計らって製剤開発や臨床試験を進め、当局による製造販売承認を得ることを目指します。
ただし、先発医薬品メーカーは物質特許だけではなく、製剤の特許、化合物の製造方法の特許など様々な関連特許を保有しています。物質特許権が期間満了しても、そうした関連特許は排他独占権を有します。
そのためジェネリック医薬品メーカーは、先発医薬品メーカーの保有する製剤特許に抵触せず、先発医薬品と同レベルの品質・有効性・安全性が確保され、治療学的に同等である製品を開発する必要に迫られます。ジェネリック医薬品メーカーに原薬を供給する原薬メーカーは、先発医薬品メーカーの保有する製造方法の特許に抵触しない製造方法を採用する必要があります。
ところで、ジェネリック医薬品メーカーも、それぞれ独自で製剤の特許権を出願するなどして、ジェネリック医薬品メーカー同士で開発競争を繰り広げています。
先発医薬品の物質特許が満了したとしても、独占実施権をめぐる攻防は終わりにはなりません。

3.医薬(医療)モダリティの多様化

医薬品といえば従来は低分子医薬品がほとんどでしたが、近年は、組換え蛋白質、抗体医薬、核酸医薬など、様々なバイオ医薬品(新規モダリティ)の研究開発と実用化が進み、広く医療に使われるようになってきました。
現在、全世界の売上トップ10製品(2022年)、日本の売上トップ10製品(2023年)のいずれも、約半分の製品が、抗体、タンパク、ペプチドといったバイオ医薬品で占められるまでになっています。
医薬品に加え、スマートフォン等を活用し患者の治療に用いるソフトウェア「治療用アプリ」のようなデジタル治療(Digital Therapeutics, DTx)も登場し、薬事承認を受けて患者さんの治療に使われるようになっています。
それぞれの医薬モダリティの特性に応じた特許出願・権利化が行われ、開発企業の独占実施権を保護しています。

多様化した医薬(医療)モダリティ
・抗体医薬
・抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)
・組換えタンパク
・ペプチド医薬
・核酸医薬(アンチセンス、siRNA、miRNA etc.)
・mRNA医薬
・遺伝子治療
・細胞治療
・治療用アプリ

4.さいごに

AIRIは、特許庁登録調査機関として特許審査における先行技術調査を特許庁から受託している企業の一つで、年間2万件を超える先行技術調査を行っています。
医薬品関連の技術分野では年間数百件ほどの先行技術調査を実施しており、法定研修に合格した調査員が常に最新の発明トレンドや特許審査に接し続けています。
特許文献調査だけでなく、学術文献の調査、化学構造検索、遺伝子・蛋白質の配列検索の能力も有し、調査結果に基づいた特許性の判断や、海外特許庁での審査経緯の分析も得意としています。
各種特許調査、特許に関するご相談はお気軽にAIRIにお問い合わせください。

執筆者プロフィール
村井 孝弘
執行役員 社長室経営企画グループリーダー
1975年大阪府生まれ。
大手製薬メーカーを経て、2015年AIRIに入社。化学応用、医薬、医療機器など幅広い分野の特許調査や知財コンサルティングに従事。現在は社長室で経営施策の企画・遂行を担当。
1997年 京都大学農学部卒、1999年 同修士卒。2008年 農学博士(論博)取得後、~2010年米国留学。
趣味は水泳と野球観戦。

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