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医薬品の特許③

前回のレポートでは、2023年の国内医療用医薬品市場で1315億円を売り上げた低分子の経口抗凝固剤リクシアナ(一般名:エドキサバントシル酸塩水和物)について、開発元の第一三共の保有する特許の簡易的な調査分析を行いました。
今回のレポートでは、ジェネリック医薬品メーカーによる特許出願について簡易的な調査分析を行います。

目次
1.ジェネリック医薬品メーカー等によるエドキサバン関連特許出願(日本)
2.先発発明と後発発明のせめぎあい
3.さいごに

1.ジェネリック医薬品メーカー等によるエドキサバン関連特許出願(日本)

【調査方法】
J-PlatPat「特許・実用新案検索」の「論理式入力」画面から行います。
文献種別は「国内文献」のみにチェックを入れます。前回のレポートとは異なり、検索オプションは設定せず、全てのリーガルステータスを検索対象とします。

以下の検索論理式を入力しました。

式1

エドキサバン/(CL+TI+AB)

式2

{クロロピリジ,テトラヒドロチアゾ,シクロヘキ},99n/(CL+TI+AB)

式1のヒット件数は79件、式2のヒット件数は22件でした。(2024年6月現在)
ヒット文献の内容を確認し、エドキサバン関連特許出願を特定しました。

【調査結果】
2019年ごろから出願件数が増加しています。特許出願の内容として、製剤が13件、中間体の製造方法が3件、エドキサバンの製造方法が2件、エドキサバンの結晶形が1件特定されました。

【図1】ジェネリック医薬品メーカー等によるエドキサバン関連特許出願

それぞれの内容を下表にまとめます。
(注意:本レポート向けの簡易的調査に基づくものであり、本表で現在公開中案件の全てが網羅されているかどうか保証するものではありません。)

ジェネリック医薬品メーカー等によるエドキサバン関連特許出願(2024年6月)

出願番号 発明の名称 出願人/権利者 内容
特願2023-101357 エドキサバンの製造方法 ガピ バイオ カンパニー リミテッド,ドンバン フューチャー テック アンド ライフ カンパニー リミテッド 製造方法
特願2021-167869 エドキサバン含有医薬組成物 ダイト株式会社 製剤
特願2021-165229 エドキサバン含有医薬組成物 日医工株式会社 製剤
特願2022-049874 エドキサバン口腔内崩壊錠 東和薬品株式会社 製剤
特願2022-008743 エドキサバン含有医薬組成物 全星薬品工業株式会社 製剤
特願2020-216391 エドキサバン含有医薬組成物 日医工株式会社 製剤
特願2020-181257 エドキサバンを含有する口腔内崩壊錠 ニプロ株式会社 製剤
特願2021-101625 tert-ブチル N-((1R,2S,5S)-2-((2-((5-クロロピリジン-2-イル)アミノ)-2-オキソアセチル)アミノ)-5-(ジメチルカルボニル)シクロヘキシル)カルバメートの調製のための エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 中間体の製造方法
特願2020-567200 新規な結晶形形態のエドキサバン及びその製造方法 ユニセル・ラブ・カンパニー・リミテッド 結晶形
特願2022-537578 エドキサバン錠剤 バイオホルム、ソシエダッド リミターダ 製剤
特願2020-176336 エドキサバン含有造粒物及び口腔内崩壊錠 日本ジェネリック株式会社 製剤
特願2019-197936 エドキサバン含有錠剤 日本ジェネリック株式会社 製剤
特願2019-133590
(特許7338857)
エドキサバン含有医薬組成物 日医工株式会社 製剤
特願2020-096832 エドキサバンを含有する口腔内崩壊錠 ニプロ株式会社 製剤
特願2021-528317 エドキサバンを含む薬学的製剤およびその製造方法 ボヒュン ファーマーシューティカル カンパニー リミテッド 製剤
特願2018-175006 エドキサバンの製造方法 ガピ バイオ カンパニー リミテッド,ドンバン フューチャー テック アンド ライフ カンパニー リミテッド 製造方法
特願2020-542406
(特許7327736)
tert-ブチルN-((1R,2S,5S)-2-((2-((5-クロロピリジン-2-イル)アミノ)-2-オキソアセチル)アミノ)-5-(ジメチルカルバモイル)シクロヘキシル)カルバメートを調製するための方法 モエス、イベリカ、ソシエダッド、リミターダ 中間体の製造方法
特願2019-501697
(特許6831447)
アミン保護(1S,2R,4S)-1,2ーアミノ-N,N-ジメチルシクロヘキサン-4-カルボキサミドの塩 マイラン ラボラトリーズ リミテッド 中間体の製造方法
特願2016-574064 エドキサバンの医薬組成物 サンド・アクチエンゲゼルシヤフト 製剤

2.先発発明と後発発明のせめぎあい

有効成分の物質特許が満了するとその特許は誰でも使用できるようになるため、ジェネリック医薬品の参入が可能となります。
しかし、先発医薬品メーカーは物質特許だけではなく、製剤の特許、化合物の製造方法の特許など様々な関連特許を保有していること、物質特許権が期間満了してもそうした関連特許は有効に存在し続けることは医薬品の特許①、②でも紹介したとおりです。
製剤発明に関する一例を分析してみます。
先発医薬品メーカーの第一三共が保有している製剤特許に特許第6061438号があります。存続期間満了日は2037年4月11日ですから、権利期間がまだ10年以上残っています。
特許第6061438号の請求項1の発明は以下の通りです。

特許第6061438号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 式(I)で表される、N¹-(5-クロロピリジン-2-イル)-N²-((1S,2R,4S)-4-[(ジメチルアミノ)カルボニル]-2-{[(5-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチアゾロ[5,4-c]ピリジン-2-イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド、その薬理上許容される塩又はそれらの溶媒和物、および
(B) フマル酸、を含有する医薬組成物
【請求項2】~【請求項8】(省略) 

エドキサバンとフマル酸を含有する医薬組成物についての特許権です。本特許権の有効期間中は、ジェネリック医薬品メーカーが(特許権者からライセンスを受けることなく)エドキサバンのジェネリック医薬品にフマル酸を添加することはできません。

さて、ニプロ株式会社によるエドキサバンのジェネリック製剤の特許出願(特願2020-181257;審査中)に以下のようなものが見つかりました。

特願2020-181257
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  (A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、
  (B)有機酸とを含み、
  少なくとも前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と前記(B)有機酸とが造粒物として、または、さらに崩壊剤を含み、少なくとも前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とが造粒物として、含有されており、
  結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む、口腔内崩壊錠。
【請求項7】
  前記(B)有機酸は、フマル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アジピン酸、および、コハク酸からなる群より選ばれるいずれか1つ以上である、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項2】~【請求項6】、【請求項8】~【請求項10】(省略)

本出願は本レポート執筆時点で「審査中」です。そのまま特許査定されるか、減縮補正を経て特許査定されるか、拒絶査定されるかは分かりません。
さて、本特許出願がそのまま特許査定されたと仮定します(理論上はあり得ます)。しかし、有機酸としてフマル酸を配合する製剤については、上記の特許第6061438号ですでに押さえられています。

以上、製剤特許に関する権利のせめぎあい事例をご紹介しました。発明として特許権を取得する際の調査観点と、その実施を検討する際の調査観点は全く違ったものであることがご理解いただけるかと思います。

3.さいごに

AIRIは、特許庁登録調査機関として特許審査における先行技術調査を特許庁から受託している企業の一つで、年間2万件を超える先行技術調査を行っています。
医薬品関連の技術分野では年間数百件ほどの先行技術調査を実施しており、法定研修に合格した調査員が常に最新の発明トレンドや特許審査に接し続けています。
特許文献調査だけでなく、学術文献の調査、化学構造検索、遺伝子・蛋白質の配列検索の能力も有し、調査結果に基づいた特許性の判断や、海外特許庁での審査経緯の分析も得意としています。

各種特許調査、特許に関するご相談はお気軽にAIRIにお問い合わせください。

執筆者プロフィール
村井 孝弘
執行役員 社長室経営企画グループ
1975年大阪府生まれ。
大手製薬メーカーを経て、2015年AIRIに入社。化学、ヘルスケアなど幅広い分野の特許調査や知財コンサルティングを担当。2023年より現職。
1997年 京都大学農学部卒、1999年 同修士卒。 農学博士(2008年 論博)。
趣味は野球観戦(ベイスターズ)と水泳。

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