画像形成装置における省エネ技術とその特許③
1.はじめに
前レポートでは、消費電力の削減を実現した代表的な省エネ定着技術の特許についてご紹介しましたが、本レポートでは新たなアプローチによる省エネ定着技術の特許についてご紹介します。
2.定着技術の省エネ化に対する新たなアプローチ
2015年以前の定着装置では1~10分もの長いウォームアップ時間を必要とし、待機中も予熱する必要がありましたので、省エネ化を実現する上ではこれらに必要な電力の削減が最重要課題でした。
こうした課題が解決され消費電力が大幅に削減された結果、複合機の消費電力量は2005年度から2015年度の10年間で約80%削減されました(前々回レポートの【図4】参照)。
2015年頃からは、更なる省エネ化を進めるため、稼働時における定着プロセスそのものを省エネ化するアプローチが盛んになってきました。
従来の定着プロセスでは、定着部材と加圧部材との圧接部である定着ニップで用紙に転写されたトナーを加熱溶融することで用紙に定着していました。この方法では、トナーだけではなく用紙も同時に加熱されてしまい、無駄なエネルギーが消費されてしまいます。一般的なコピー用紙の厚さ(約90μm)はトナーの粒径(約7μm)の10倍以上あり熱容量が大きいことに加え、用紙全面に対しトナー画像が占める割合は一般的に4%程度(モノクロテキスト画像の場合)です。そこで、トナーだけを集中的、選択的に加熱する新たなアプローチによる定着技術が実現できれば定着時消費電力についても大幅に削減することができます。
【図1】 コピー用紙へのトナーの定着プロセスの模式図
3.新たなアプローチによる省エネ定着技術の特許の紹介
<表1>は新たなアプローチによる省エネ定着技術の特許公開番号と、各定着技術に用いられている要素技術について整理したものです。次に今回取り上げさせた各省エネ定着技術について、公開特許公報中の【図2】~【図5】を用いてその技術内容について簡単にご紹介します。
<表1> 新たなアプローチによる省エネ定着技術特許とその要素技術
特開平07-191560号公報の定着装置は、【図2】に示すように、熱源として半導体レーザーを用い、レーザー光をトナーに直接照射して加熱溶融するアプローチを採用するものです。
【図2】 特開平07-191560号公報
特開2004-179051号公報の定着装置は、【図3】に示すように、熱ではなく溶剤(定着液)を用いてトナーを溶融し用紙に定着するものです。噴出ヘッドから打ち出される定着液はトナー部分にのみ付着するように打ち出し制御されることで、トナーを集中的、選択的に溶融する構成となっています。
【図3】 特開2004-179051号公報
特開2005-181946号公報の定着装置は、【図4】に示すように、熱源としてサーマルヘッドを用いるものです。サーマルヘッドはトナー部分のみ加熱制御されることでトナーを集中的、選択的に加熱する構成となっています。
【図4】 特開2005-181946号公報
特開2007-003689号公報の定着装置は、【図5】に示すように、トナーを用紙上ではなく定着ローラ表面に転写し、外部加熱ローラにより定着ローラ上のトナーを集中的、選択的に加熱した後、用紙に転写するのと同時に定着するアプローチを採用するものです。
【図5】 特開2007-003689号公報
4.さいごに
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執筆者プロフィール
香川 敏章
特許調査事業部(人間環境領域) 兼 社長室経営企画グループ
1989年3月に神戸大学工学部生産機械工学科修士課程修了後、同年4月にシャープ株式会社に入社。
プリンタ、デジタル複合機、電池等の研究開発、商品化に従事し、在職中の出願特許は280件を数える。
2017年3月にAIRIに入社し、事務機、電池、生産機械等、専門性を活かし幅広く特許調査を担当。
2023年7月より現職。香川県丸亀市出身。
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